迷い

 「好きなものがある」それはこの世への未練である。公開を楽しみにしている映画、続きが気になる漫画、好きな小説家の新刊。そういったものが生きる力に繋がる。
 しかし、年を経ると共に、僕の「好きだ」という想いは枯れていった。小説のページを捲る手は重くなり、TVを付けるのが億劫になり、映画館へと足を運ぶのも面倒で気がつけば何をするでもなく一日が過ぎていく。
 眠ることがやけに心地いい。意識がないのは救いだ。思考できないのは救いだ。それはこの世への未練がなくなったことを意味する。終わらせてもいいのではないだろうか?そんな気の迷いを楽しくもないゲームに時間を注ぎ紛らわせる。
 「生きる」ということに確信が持てるしあわせな時間は終わり、「生きるの?」という疑問と付き合いながらこれから僕は歩いて行くのだろう。目的地は確かにあったはずなのに、いまとなっては思い出せない。何処に向かっていくのか分からないままウロウロと彷徨っている。
 それでも、言葉だけは湧いてくるから、僕はやはり詩を書くのだろう。びくびくと怯えながら、弱々しい弾丸を、物陰からこっそりと打ち続けるのだ。世界が変わることをひっそりと祈りながら。